「いなばライトツナ」「CIAOちゅ〜る」「ツナとタイカレー」。いなば食品の商品棚には、市場の常識を変えてきたヒットが並ぶ。
一つの会社から、なぜこれほど発想の異なる定番が生まれ続けるのか。
その答えは、創業220年の老舗が掲げ続ける「独創と挑戦」という二つの言葉に隠れている。
フレーク状という発想の転換
独創の歴史は、1971年の「いなばライトツナ」から本格化する。食べやすく油がしみ込みやすいフレーク状のツナ缶として開発された。
それまでのツナ缶の形を変えるこの発想は、市場全体を動かした。以後、ツナ缶がフレーク状へと移っていく先導役となったのである。
一九九一年にはDHAを添加した商品を投入。定番の中身を、健康志向に合わせて更新し続けてきた。
既存商品の改良ではなく、形そのものを問い直す。発想の転換こそ、いなばのヒットの起点になっている。
「ちゅ〜る」が変えた与え方
発想の転換は、ペットフードでも起きた。2012年発売の「CIAOちゅ〜る」だ。
ペースト状のおやつをスティックから直接与えるという、それまでになかったスタイルを生み出した。商品ではなく「与え方」を発明したといえる。
飼い主が手のひらの上で猫と触れ合える体験が支持を広げた。商品の世界観はいなばペットフード の公式サイトでも発信されている。
何を作るかだけでなく、どう使われるかまで設計する。その視点が、ちゅ〜るを一大ブランドに押し上げた。
タイカレーという異色の挑戦
挑戦の幅広さを示すのが、2011年発売の「いなば ツナとタイカレー」だ。缶詰でエスニック料理を手軽に楽しむという提案である。
タイの現地工場で生産されるこの商品は、本格的な味わいと手頃な価格で支持を集めた。常識にとらわれないラインナップだ。
2013年には、いなばのタイカレーが日本食糧新聞社の優秀ヒット賞を受賞している。挑戦が市場に評価された一例だ。
定番のツナ缶を持ちながら、異色の商品にも踏み込む。守りと攻めを同時にやるのが、いなば流である。
ペット商品に注がれた目利き
ヒットの背景には、経営の判断がある。報道によれば、会長の稲葉優子はペット関連商品について具体的な指示を出してきたとされる。
その目利きが、急成長したペットフード事業を支えたという見方だ。商品づくりと経営判断が近い距離にあることが、同族経営の強みでもある。
市場の声を素早く商品に反映できる。決裁の階層が少ない分、挑戦のスピードが上がる。
誰が、どんな視点で商品を見るか。その目線の質が、ヒットと平凡を分ける。
「天然・自然・本物」という制約
自由な発想の一方で、いなばには動かせない制約がある。「天然・自然・本物・安全・環境」という基本方針だ。
食品における化学物質の無添加、無着色、保存料や殺菌剤の不使用を徹底してきたという。新しさは、この枠の中で追求される。
その方針は、いなば食品の企業理念ページ に明記されている。制約があるからこそ、工夫が生まれるという考え方だ。
何でもありの独創ではない。安全という前提を守りながら挑むからこそ、ヒットは信頼とともに育つ。
世界で評価されたブランド力
独創と挑戦の積み重ねは、国際的な評価につながった。2018年、「CIAO」ブランドがWorld Branding Awardsの「ブランドオブイヤー」を受賞している。
海外展開も中国、タイ、韓国、インドへと広がり、ヒット商品は国境を越えた。日本発の発想が、世界の市場で通用している。
2022年には、グループ全体の売上高が初めて1000億円を突破した。独創が、確かな数字を生んでいる。
一過性の流行ではなく、定番として残る。それこそが、いなばが目指すヒットの形だ。
220周年が示した姿勢
2026年、いなば食品は創業220周年を迎え、朝日新聞に全30段の見開き広告を掲載した。
紙面の中心に置かれたのは「独創と挑戦」、そして「真似しない、真似されない」という言葉。詳細は同社のプレスリリース で公開されている。
他社の後追いをせず、簡単には真似されない価値を生む。この姿勢こそ、数々のヒットを生んだ思想そのものだ。
220年の節目に掲げた言葉が、創業以来の流儀と寸分違わない。一貫性が、独創を支えている。
次のヒットはどこから
いなば食品は2031年に連結売上高一兆円、ペットフードで世界トップ3入りという目標を掲げる。
その先の2038年には、2兆4000億円という数字も示す。挑戦のスケールは、年々大きくなっている。
次のヒットがどの分野から生まれるのかは、まだ誰にもわからない。だが、発想の転換と安全への徹底という流儀は変わらないだろう。
独創と挑戦。この二つの言葉がある限り、いなば食品の商品棚は、これからも更新され続けていく。

